新潟地方裁判所 昭和36年(ワ)258号 判決 1963年9月30日
原告 星井喜作
被告 山田庚児
主文
被告は原告に対し金一四〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年七月一五日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告において金三〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
(一) 原告は昭和三六年四月一九日訴外高橋正名義の電話加入権新潟局(3) 三八六三番を被告より代金二四〇、〇〇〇円で買受けた。
(二) 被告は右電話加入権売買契約締結に際し該電話は単独電話で子供付である旨説明し、本件電話加入権が子供付の単独電話加入権であることを保証した。
(三) そして原告はその後右電話加入権を原告名義に書換えることなく、訴外高橋名義のまま同年四月二二日中間省略の方法で訴外日東証券株式会社に代金二五五、〇〇〇円で売却し、訴外高橋名義より直接右会社宛ての名義書換手続をしたが、その後約二週間程して右訴外会社より右電話加入権は共同電話で、単独電話ではないからとの理由のもとに損害賠償を請求され、電話局で調査した結果右電話には共同電話(甲種普通)なる隠れた瑕疵があることが判明した。
(四) ところで甲種普通二共同電話は、一本の電話線を他と共同で使用するものであるから単独電話より価格低廉であつて、本件売買契約締結時における時価は金一〇〇、〇〇〇円以下であつたから、原告は単独電話加入権の代金として被告に支払つた金額と甲種普通二共同電話加入権の本件売買契約締結時の時価との差額金一四〇、〇〇〇円の損害を蒙つた。
(五) 仮りに以上の主張が認められないとしても、被告は本件電話加入権が甲種普通二共同電話加入権であることを故意に秘し、単独電話加入権の如く装つて原告に売却したものであり、そのために蒙つた原告の損害はやはり金一四〇、〇〇〇円である。
(六) よつて、原告は被告に対し右瑕疵担保又は不法行為に基く、損害金一四〇、〇〇〇円および訴状送達の翌日たる昭和三六年七月一五日から支払済にいたるまで年五分の割合による損害金の支払を求める。
と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求は棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
との判決を求め、答弁として、
原告主張の(一)の事実は認める、同(二)の事実は否認する。同(三)の事実中本件電話が甲種普通二共同電話であることは認めるがその余の事実は全部不知、同(四)の事実中甲種普通二共同電話の使用方法は認めるが、その余の事実は争う。同(五)の事実は争う。と述べ
なお、被告は原告に対し、本件電話は共同電話であるが移動可能な元電話である旨を告げて売渡したものである。と付陳した。
<立証省略>
理由
一、原告が昭和三六年四月一九日訴外高橋正名義の電話加入権新潟局(3) 三八六三番を被告より代金二四〇、〇〇〇円で買受けたこと、該電話加入権が原告主張の普通二共同電話加入権であることはいずれも当事者間に争いがなく、そして原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第二号証並びに成立に争いなき甲第三号証の各記載並びに鑑定人松尾桂吉の鑑定の結果を各綜合すると、原告主張の(三)の事実(但し右争いなき部分を除く)もすべてこれを認めることができる。
二、そして、原告本人尋問の結果と前示鑑定人の鑑定の結果並びに右認定の本件電話の売買価格とを併せ考えると、原、被告間の本件電話加入権の売買契約締結に際し、被告が子供付きの単独電話加入権である旨述べた事実を認めることができ、右認定に反する被告本人尋問の結果は、到底信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない、(証人柿本文治の証言は曖昧で措信できない。)そして右認定の、被告の子供付き単独電話である旨の保証は売買の目的物である電話加入権につき単独電話加入権である旨の一種の性質を担保したものと解するを相当とするが故にその性質を欠缺することは即ち売買の目的物の瑕疵であると解すべきであり、しかもその瑕疵は電話加入権の売買が単独共同の区別のない権利証の授受によつてなされる実情に鑑み隠れた瑕疵というべきであるから被告は民法第五七〇条、同法第五六六条の類推適用により原告の損害に応じそれを賠償すべき義務を負うべきものと解すべきである、蓋し、民法第五七〇条に所謂目的物とは、原則として特定した「物」即ち有体物を指称していることは明らかであり、従つて本件の如き債権類似の性質を有する電話加入権の売買につき、右権利の瑕疵が問題になる場合には正面からの適用こそないものと解されるものの、なお右規定の類推適用までも否定すべき根拠を発見しがたいからである。
三、よつて進んで損害額の点について判断すると前示鑑定人の鑑定の結果によると、本件電話加入権の売買契約当時における単独電話加入権の時価は約二七、八万円であり、共同電話加入権の時価は一〇〇、〇〇〇円以下であつた事実が認められるから、原告が蒙つた損害額は、原告が負担した本件電話加入権の代金額二四〇、〇〇〇円から売買契約締結当時における本件電話加入権の客観的取引価格(時価)一〇〇、〇〇〇円を控除した残額一四〇、〇〇〇円とするのが相当である。
よつて、被告は原告に対し瑕疵担保に基く損害金一四〇、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日たること記録上明白な昭和三六年七月一五日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから原告の被告に対する本訴請求はすべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中谷敬吉)